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雑記

        

ロシアの深い闇

category - 雑記
2008/ 08/ 12
                 
先月、図書館へ予約しておいたビジネス本を2冊借りに行ったとき、他にもいい本がないかと蔵書を見て回っていると、ある1冊の本が目に留まった。

アッラーの花嫁たち ―なぜ「彼女」たちは“生きた爆弾”になったのか?

『生きた爆弾』 という言葉がひっかかり本を手に取りパラパラとめくってみた。
2002年にチェチェンの武装勢力による「モスクワ劇場占拠事件」での、女性テロリストについて書かれていたものだった。

これは当時ニュースで見て知っていたので、借りてみることにした。

とはいうものの、この本を読むまでは日本で報道された表面上のことしか知らず、チェチェン共和国からロシア軍撤退を要求するため、狂信的なテロリストたちが自爆覚悟でこの行動にでたという程度の知識しか持ち合わせていなかった。

読み進めていくうち、彼女たちがなぜ『生きた爆弾』となったのか、その真相を知り衝撃を受けた。

多くの若い女性たちは、死ぬことを望んでおらず、中にはモスクワまでの往復切符を渡され、使命を果たしたのちには生きてそこから出られると信じていたものも・・・

自爆テロは「モスクワ劇場占拠事件」だけでなく、一連の事件の中では怪我を負いながらも生還したものもいるが、彼女もまた命を狙われる危機にさらされ堕ちた生活に身をゆだねるしかない状況に。

悲しかったのは、好意をもった男性にだまされるようにして、また親に売られるようにして、彼女たちが生きた爆弾にならざるを得なかった背景である。また、不幸な女性を狙ってシャヒード にするところも許せない。

一般市民への残酷な行為の数々が書かれており、少数派ではあるが、そうした行為による絶望の果て、復讐のために自らの意思で生きた爆弾となった女性の話も書かれており、なんともやりきれない思いにさせられた。

余談であるが、著者のユリヤ・ユージックは、この本を書いたときは確か22歳だったはず。
著者・ユリヤの写真だが、女優ばりの美貌の持ち主で、妖艶なフォトに驚かされた。

アッラーの花嫁たち ―なぜ「彼女」たちは“生きた爆弾”になったのか?
アッラーの花嫁たち ―なぜ「彼女」たちは“生きた爆弾”になったのか?


「アッラーの花嫁たち」ではチェチェン戦争について詳しく書かれていないため、この問題について詳しく知らない自分には政治的・民族的なことについてわかりづらい部分もあり、ロシア-チェチェンについて理解を深めるため、もうひとりのロシア人女性ジャーナリストの本を借りてみることにした。
ジャーナリストとしては、ユリヤよりも彼女のほうが有名です。

プーチン政権批判で知られる「ノーヴァヤ・ガゼータ」紙のアンナ・ポリトコフスカヤの著書チェチェン やめられない戦争である。彼女は「モスクワ劇場占拠事件」では、武装グループから仲介役を指名され交渉にあたった人物でもある。

こちらではチェチェンの地図、歴史から戦時下の様子から、この紛争が誰に利益をもたらすのかまで書かれている。(チェチェン戦争が何故起こったのかは、この後紹介するリトビネンコの著書の方がわかりやすいと思う)


チェチェンには、規制の厳しさから外国人のジャーナリストが入りづらいという中、身の危険もかえりみず現地へ取材に赴き、チェチェン人の生の声を集め書き起こし、堂々とプーチン政権を批判する。彼女の勇気ある行動力から浮き彫りとなったチェチェンとロシアの現実は重く読む価値がある。


まさに命を懸けた彼女の現地での取材による生の声の数々、そしてロシア軍の「掃討作戦」という名目の残虐行為。日本のニュースで報道される伝えきれていない国際情勢の一部を深く知ることになった。

「掃討作戦」の実態がこの本では生々しく書かれている。


この中でひとつ明るい話題があった。
チェチェンからロシアへ抜け出し、モスクワで普通の暮らしを手に入れた年配の女性の話だ。
希望が見出せない(というより、絶望しかない)生活を強いられている様子ばかりが取り上げられていたので、ほっと胸をなでおろすことが出来た唯一のケースである。

チェチェン やめられない戦争
チェチェン やめられない戦争


現実を伝えるジャーナリスト・アンナは、航空機内で毒を盛られ重態に陥ったこともあったが、最後まで伝えることを諦めなかった。

しかし、そんなアンナも2006年10月7日暗殺される。

モスクワ市内の自宅アパートのエレベーター内で、銃殺された死体が発見された。

命を狙われながらも、貫いた正義。

彼女以外でも、多くのジャーナリストが殺されているそうだ。


彼女の本はプーチニズム 報道されないロシアの現実と、ロシアン・ダイアリー―暗殺された女性記者の取材手帳を、まだ読んでいないので近々読む予定だ。きっと、迫力ある渾身のルポであるはず。





※ノルド・オスト事件(=モスクワ劇場占拠事件)についてもっと掘り下げて調べてみたくなり、人質のひとりが書いた「モスクワ劇場占拠事件」も借りてみたが、こちらはお勧めできない。

著者がジャーナリストということもあり、迫力ある壮絶な手記かと思いきや、その殆どが事実の羅列であるからだ。

ジャーナリストでもありかつ人質でもあった彼女が一体何をこの本で伝えたかったのか理解に苦しむ。
アンナ・ポリトコフスカヤのように、その場にいたからこそ伝えられる恐怖や苦しみなど、メディアが伝えられなかった当事者のありのままの声が聞きたかったのに。

モスクワ劇場占拠事件―世界を恐怖で揺るがした4日間
モスクワ劇場占拠事件―世界を恐怖で揺るがした4日間

ロシアの腐敗、チェチェン戦争は何故起きたのか、プーチン政権は何故批判されたのか、などイマイチすっきりとこなかった自分にとって次に紹介する人の本は、わかりやすくこれらを教えてくれそうだ。


ここまでは、「アッラーの花嫁たち」という、ノルド・オスト事件のシャヒードたちの実像に迫った1冊の本との出会いをキッカケに、チェチェン紛争に興味を持ち、その後読んだロシアの著名なジャーナリストであったアンナ・ポリトコフスカヤの「チェチェン やめられない戦争」という本についてのご紹介をした。

  • アンナ・ポリトコフスカヤ, 三浦 みどり
  • 定価 : ¥ 2,520
  • 発売日 : 2004/08/25
  • 出版社/メーカー : NHK出版
  • おすすめ度 : (17 reviews)
    現場からこそ見える真実
    疲れました
    肌身に感じられるドキュメント
    いまだに価値を持ち続けるルポルタージュの傑作
    世界の損失とならないために


「アッラーの花嫁たち」を読み終わり、実は「チェチェン やめられない戦争」と一緒に、アンナと同じくプーチン批判で知られ、FSBによる新興財閥のボリス・アブラモヴィッチ・ベレゾフスキー暗殺計画を内部告発し、ロシアからイギリスへ亡命したものの、2006年に毒殺されたアレクサンドル・リトビネンコについて書かれた本も借りていた。

そのリトビネンコについて書かれた本は、彼のイギリス亡命を助けたアレックス・ゴールドファーブとリトビネンコの妻・マリーナの共著リトビネンコ暗殺というタイトルである。

ですので、「チェチェン やめられない戦争」と、「リトビネンコ 暗殺」は、ほぼ同時に読んでいたことになる。
この本の表紙の写真のインパクト(日本の報道番組でも流れた映像)はデカイ。

「リトビネンコ 暗殺」は、訳者のあとがきも入れると470ページ近くにも及ぶ。
加えて内容の重さもあり、早読みが得意な自分であるが、アッラーの花嫁たちから、リトビネンコ暗殺までの3冊は、読破するまでにかなりの時間を要した。

ただリトビネンコ暗殺は、これまでの2冊と違い登場人物の説明書きがあり、またプーチンやエリツィンなどの馴染みがある名前が出てくるだけに、ある程度読んでいくとそこからは一気に読むことができた。

アンナにしてもリトビネンコにしても、なぜ殺されたのか?これらを読むとその理由がわかるのだが・・・

リトビネンコ暗殺
リトビネンコ暗殺


アンナとリトビネンコらの視点から見ると、彼らを殺害した主犯はプーチンということになるのだろうが、本以外のインターネットの情報も鑑みると、背景はとても複雑でそうともいいきれない部分をかんじた。
果たしてロシア政府が関与しているのか、別の勢力による殺人だったのか?
彼らが命を狙われる理由はわかるものの、口を封じられたのか、単にその存在を利用されただけなのか、深く知れば知るほどわからない部分が出てきて釈然としないのである。

例えばリトビネンコの毒殺も

リトビネンコは事件当日の午後、ジャーナリスト・アンナ・ポリトコフスカヤ暗殺事件の真相究明のため、イタリア人のマリオ・スカラメッラとロンドン市内の寿司レストラン”イツ”で会食後、ミレニアム・ホテルのバーでロシア人たちとお茶をしたという。その後体調が悪化し入院する。

当初はタリウム中毒が疑われたが、その後猛毒の放射性物質ポロニウム210が大量に検出される。
イギリス警察当局は毒殺の主犯として、アンドレイ・ルゴボイを殺人罪で告発し、ロシア政府に対し身柄引き渡しを求めるが、ロシア側はこれを拒否した。

犯行に使用されたポロニウムは、発見される可能性が低く、微量で致死量となり、吸い込むか飲み込むかしない限り扱うものには害を及ぼさず、それまで殺人に使われたことがなかったらしい。リトビネンコ毒殺に使われたポロニウムの量は容易に手に入るものではなく、またそれを使いこなすための技術も必要で大掛かりな組織的犯罪を匂わせる記述があったのだが、アメリカでは通販でポロニウムが買えるという情報もあり本の記述と矛盾する。
(このアメリカで通販で入手できる云々は確証はないのだが)

またポロニウムは寿司レストランではなく、この後に行ったホテルのバーで飲んだ紅茶にもられたとされているが、それでは何故、寿司レストラン、バーともに放射能が検出されたのか?この事件の前にも寿司バーで毒を盛られた疑惑があり、これがもし同じレストランだったら、それゆえの検出だったのか謎である。

「リトビネンコ 暗殺」では、元FSBだったアレクサンドル・リトビネンコというひとりの人間を通し、ロシアの現実をあぶりだしている。

アッラーの花嫁たちでは、進んで自爆テロを行ったと思っていたシャヒードたちの素顔を、チェチェンやめられない戦争ではチェチェン戦争の実態を、リトビネンコ暗殺ではニュースではわかりえないロシアの現実と深い闇を知ることができた。またこれらの本をきっかけに、モスクワ劇場占拠事件やアパート爆破事件の裏側を知りえたことは非常に興味深く感じた。

ユリヤとアンナの著書は、女性テロリストたちの本当の姿とシャヒードとして送り込まれた背景、戦時下のチェチェンのルポというやや局所的なものであり、リトビネンコ暗殺事件の本で全体像を掴み始めた感触を得たため、今一度全体像をはっきりとさせたいと思い借りたのが、現在読んでいるロシア闇の戦争―プーチンと秘密警察の恐るべきテロ工作を暴くである。



これはリトビネンコとユーリー・フェリシチンスキーの共著で、この本が世に出る前にリトビネンコは毒殺されてしまった。
最後にリトビネンコの声明文(自分にもしものことがあったら発表してほしいという、遺言のようなもの)があるのだが、その言葉が自らの死を覚悟した切実な叫びで、これを読むとやはり彼らを抹殺する命令を下したのはプーチンなのかなと、自分の気持ちも揺れるのである。
※リトビネンコの声明文は、先に読んだ「リトビネンコ 暗殺」にも掲載されていた。

前編で書いたアンナ・ポリトコフスカヤの他の2冊(プーチニズム、ロシアン・ダイアリー)を借りる前にこの本を借りたのは、ソ連時代のKGBから最終的にFSBまで在籍してたリトビネンコだからこそ、「ロシアの闇」がどういうものであるのか理路整然と導き出しているであろうという期待と、それに加えてユリヤ、アンナたち女性とは違った、冷静な書き方になっていて、複雑なロシア事情がよりわかりやすくなっているのではないかという判断からだ。

この記事は前編と同時に書き始めたのでかなりの時間を要しながら仕上げていってるのだが、「ロシア闇の戦争」も、主な登場人物の紹介があるのだが、それ以外の登場人物も多く最初は読むのに時間がかかった。今ようやっと半分までいき、ここからはペースアップして読むことができそうだ。

KGBから始まりFSBにいたリトビネンコだから、彼らのやり方がわかるだけに、非常に厚みがある内容となっている。
ロシアという国の実態がいったいどういうものなのか、それを知るにはやはりこれを読んで正解だったと思う。

これを読み終わったら、アンナの残り2冊と日本人ジャーナリストの林克明氏の本も読みたいと思う。
外国人とは違い、日本人であるがゆえによりわかりやすいものになっているのではないだろうか。

  • 林 克明, 大富 亮
  • 定価 : ¥ 1,890
  • 発売日 : 2004/03
  • 出版社/メーカー : 高文研
  • おすすめ度 : (7 reviews)
    誰が人権を踏みにじっているのか
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しかし、これらの本の中に登場した人物(書いた人も含め)の中で、いったい何人の人が殺されたんだろうか?

リトビネンコ毒殺だが、のちにこの事件は映画化された。


 「暗殺・リトビネンコ事件」のホームページ⇒ 「暗殺・リトビネンコ事件」


  「暗殺・リトビネンコ事件」予告編 (※音がでるので注意)

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